全国の清掃会社の経営者の方が集まる「日本を磨く会」様が
毎月発行している会報誌の記事を執筆させていただきました。
▼日本を磨く会様のウェブサイトです。
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採用を行なう際に小さな会社が知っておきたいポイントを
全12回のシリーズでまとめています。
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『おさえておきたい!小さな会社の採用成功のヒケツ!』
シリーズ(2)「募集~応募受付編」
第6回:「働く理由は人それぞれ。それに合わせた魅力ある広告づくり」
前回の第5回では、採用プロセスの中で、極力早い段階でマスト要件(=応募者が絶対に満たしていなければならない要件)を確認してしまい、後ろの段階ではワント要件(=応募者が備えていればより望ましく、優先的に採用するための要件)の確認と動機付けの作業を戦略的に行なえるよう、あらかじめ決めておくことが大切だと説明しました。
今回は、応募者にとって魅力を感じる求人広告を作る上での心得について考えてみます。
会社にお邪魔して新サービス案内のチラシや提供しているサービスの一覧を紹介するパンフレットのデザインを拝見すると、会社のオリジナリティが感じられることがよくあります。経営者の方に伺うと、現場の役職者などが意識的にこのような「特徴のあるデザイン」や「主張のあるデザイン」を創ろうとしている努力がうかがえます。
お客様への情報発信ではこのように意識的な制作を心がけているのに、求人の際の求職者への情報発信のあり方は、多くの場合、非常にずさんと言わざるを得ません。応募者の方は採用されれば、一定の育成期間を経た上で、一日でも早く戦力になり、会社の一部となる人々です。それならば、お客様以上に丁寧な情報発信を求職者や応募者に向かってするべきであるとも考えられるはずです。
ずさんになっている最大の原因は他力本願の連鎖です。まず経営者が現場の役職者に「来月退職者の予定が出たから、採用の準備が必要になるぞ」と指示を出します。すると管理職の方が事務の社員などに、「今月末には求人をする必要があるから、前にお願いしたことのあるいつもの代理店に連絡して、進めてもらうようにしておいてくれ」と指示を出します。
連絡を受けた求人広告の代理店は、「前回、応募者が少なくて、不満だったようだから、今回は写真2点を入れた広告を大きめの枠でイチオシのページに入れようか。そうだ。今月のウェブとのセットキャンペーンならお得感が出て、きっとOKされるだろう」などと提案内容を決めます。
特に広告出稿の方法論どころか、外部折衝の教育を受けたわけでもない事務の社員は、代理店担当者の言い分を聞いて役職者に報告します。役職者も「まあ、半期の予算枠の中ぎりぎりの料金で、以前より応募が来ると代理店が言っているなら、仕方ないだろう」と金額だけを確認し、経営者に報告します。経営者は「ちゃんとスケジュール通りにやってくれているならまあ良い」と言った感じで報告内容を承認します。かなりずさんなケースですが、多くの会社の求人広告出稿の実態は大同小異なのではないかと思います。
この流れの何が悪いのかと疑問に思う方もいるでしょう。根本的な誤解のタネは、求人広告の代理店担当者は、求人広告の媒体管理のプロであって、求人方法のプロではないことです。そこまで悪意ある代理店担当者は少ないとは思いますが、代理店側は、求人の応募が少なくて次々と求人広告を出稿してもらえた方が儲かります。ですから、応募が少なかったと聞けば、より大きく、より色使いが多く、より良い位置の提案を高値で持参するのが常であるはずです。
実際、私が以前在籍していた会社で、アルバイト採用を行なう際に求人広告の代理店の担当者の方とやり取りする場面がありました。その方が気にしていたのは、いかに大きな枠で出してもらうか、そして、いかに目立つ大きさの文字を入れるかということでした。
前回までの記事で説明した心得をいくつか思い出してみましょう。タイトルを列挙すると「お金のために働く人はいない。改めて考える自社の魅力」(第2回)「欲しい人をはっきりイメージする。募集広告作成のカギ」(第3回)「「選抜」を目的にしない。「やる気を出させる」採用プロセス」(第5回)。振り返ると、具体的な採用したい社員の人物像を決め、その社員が自社で働きたくなるポイントをきちんと明示して、逆に自社に適当ではなさそうな求職者は半自動的に選別されるような求人広告の出稿が必要だと分かります。
これらを検討して決めるプロセスは、自社の過去のナマの採用経験そのものを分析することで進められてきました。それは、どのような応募をすれば、求人広告のコスト・パフォーマンスが良くなるのかを検証するプロセスに他なりません。それを知っていて、改善を重ねていけるのは、代理店担当者ではなく、自社の広告出稿者です。代理店担当者に広告出稿者が自社の採用方針を間違いなく提示し、自社に必要な求人広告を実現することが大切なのです。
そのためにも、前回までのお話にあったように、自社の「雇いたい人物像(ターゲットと呼びます)」や「マスト要件」「ワント要件」をそれぞれ決めておかなければなりませんし、採用方針をしっかり言語化しておかないといけません。
以前もお話しましたが、「ターゲット」を明確にするには、「モデリング」を行なうことが必要です。ターゲットを非常に細かいところまで考え、「モデル」を決めることから「モデリング」と言いますが、ターゲットの年齢を「20代」といった年代ではなく、「23歳」と具体的に決める他、収入や学歴、性格、趣味などまでイメージしてしっかり決め込むのです。まるで、テレビドラマやアニメの登場人物の設定を考えるような作業だと思ってもらえればよいでしょう。
ここで、注意しておきたいことがあります。ターゲットを決める=絞り込むということは、それ以外の人を受け入れないということだと勘違いされる方もいたりするのですが、そうではありません。ターゲットが明確になっていないまま、ターゲットが関心を持つようなキャッチコピーを考えると、誰にとってもそれなりに嬉しいものになってしまいます。誰にとってもそれなりに嬉しいことは、誰にとってもすごく嬉しいわけではないので、1番手に選ばれることはありません。採用の場面で1番手に選ばれないということは、仮に内定を出したとしても辞退されてしまうことと同じです。
そのため、応募してくる人がターゲットと多少違っても全く問題ないということです。あくまで、基本の「型」を作ることで、ターゲットやターゲットと同じニーズを持つ人にとって適切な会社の魅力を伝えることができ、1番手に選ばれやすくなるのです。
「ターゲット」を決めていく際に、社内で活躍している人物の要素を複数組み合わせることで考えやすくなる、ということを説明するようにしています。実在の人物の場合、周囲の環境などによって価値観が変化してしまったり、加齢により当時のイメージを思い出すことが難しくなってしまったりするため、「架空の人物」をターゲットにすることをお奨めしています。
このように「ターゲット」を決めることで、その人物が持っているニーズもイメージしやすくなり、結果として、魅力的な求人広告を考えることにつながっていくのです。
今回は自社で働く魅力を伝えるための効果的な求人広告を作る際上での心得について説明しました。次回は、求人誌・求人サイト以外の有効な募集方法についてお話していきます。