全国の清掃会社の経営者の方が集まる「日本を磨く会」様が
毎月発行している会報誌の記事を執筆させていただきました。
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採用を行なう際に小さな会社が知っておきたいポイントを
全12回のシリーズでまとめています。
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『おさえておきたい!小さな会社の採用成功のヒケツ!』
シリーズ(2)「募集~応募受付編」
第5回:「「選抜」を目的にしない。「やる気を出させる」採用プロセス」
前回の第4回までは「計画立案編」と称して、社員の採用から育成、定着まで計画を立てて管理をしておくべきだと説明しました。管理するための第一歩として、「雇いたい人物像」を具体的に決めておくことで、自社への関心を抱いてもらうための方法を考えやすくなります。
今回の第5回からは「募集~応募受付編」として、前回までの考え方を元に、求人広告を出して候補者を集めるまでのプロセスの中で、知っておくべきポイントについて考えていきます。
採用プロセスの目的を採用に当たる社員に尋ねると、「採用する人の候補者を集めて、選考すること」と答えます。私の考えはちょっと異なります。「募集~応募受付編」の第1弾となる今回は、「採用プロセスとは何をすることか」について考えてみます。
先に私の答えを言ってしまうと、採用のプロセスは、「採用する人の候補者を集めて、選考と動機付けを行なって、自社で働きたいと思わせること」です。
残念なことに、一般的には清掃業界はあまり人気のある業種ではないかと思います。今は少なくなってきましたが、街角に並ぶ求人のフリーペーパーを開いて、よく紙面を見てみてください。インターネットで検索して、求人サイトを見るのでも構いません。いずれにせよ、居酒屋、コンビニエンスストア、ファーストフード店など色々な職種が並んでいる中から求職者は仕事を選んでいます。清掃会社の経営者の方でも、同業他社である清掃会社を意識していることがありますが、実際には、異業種の仕事の方が求職者から見ると比較対照すべき相手です。
そんな中で、人気業種ではない清掃会社に対して、応募者は「一応候補に入れておくか」ぐらいの気持ちで連絡してきているのです。つまり、こちらが選考を行なうのと同時に、応募者もこちらを選考しています。売り手市場において、自分たちが買い手によく思ってもらわなければいけないことを肝に銘じるべきなのです。
もちろん、だからと言って、第4回の「妥協の採用は百害あって一利なし。決めておくべき最低条件」で説明した応募者が満たすべきマスト要件(=応募者が絶対に満たしていなければならない要件)まで妥協しなくてはならないと言う意味ではありません。最低限の条件をきちんと満たす人を雇うのは当たり前です。けれども、「選んでやる」と言った気持ちは必ず言動ににじみ出てしまいます。買い手優先の人気業種の社員採用と異なり、多くの清掃会社の採用プロセスは、選抜するよりも、「この会社で働きたい」と思わせる動機付けに比重を置くことが必要です。
社員の採用プロセスにおいて応募者が自社に対する印象を形作っていくステップを大雑把に見ると、「広告を見る」・「応募の連絡をする」・「面接をする」の三段階です。この三段階のうち、極力多くのマスト要件を早い段階で確認し終えてしまい、後ろの段階に行けば行くほど、選考の比重を「採用の土俵にのった人物をよりよく評価する」ためのワント要件(=応募者が備えていればより望ましく、優先的に採用するための要件)の確認と動機付けの作業においてしまうのが理想です。前回の第4回で説明したマスト要件とワント要件は、その確認作業をこうした原理で採用プロセス上の極力早い段階に、戦略的に配置するためにあらかじめ決めておかなければならないのです。
このことを下の図のように表すことができます。
■採用プロセスにおける「動機付け」要素と「選抜」要素の割合
※求職者と接触する「応募」の段階から、最終的に採用に至るまでのプロセスの流れを横軸で示しています。図にある通り、選考の早い段階で、マスト要件、ワント要件の順に確認し、「選抜」は済ませてしまい、最終面接の段階では、そのほとんどの時間を「動機付け」のために費やす必要があるのです。
では、ここで「動機付け」とは何かをちょっと考えてみましょう。「そんなの決まってる。やる気にさせることだ」と言う答えは、ギリギリ及第点越えぐらいでしかありません。第2回の「お金のために働く人はいない。改めて考える自社の魅力」の中で、社員はおカネのために働いていないケースが多いという話をしました。「人から認められるようになりたい」、「役に立っている実感が欲しい」とか「もっと色々なことができるようになりたい」など、本人も意識していないさまざまなニーズが存在しています。これらは、第2回のところで説明した「承認」や「達成」、「成長」と言った事柄に対するニーズです。
以前もお話しましたが、「承認」や「達成」、「成長」は、ハーズバーグの二要因論で言うところの「動機付け要因」に分類されます。「動機付け要因」は、なければないで取り立てて不満ではありませんが、あれば、非常に大きな喜びにつながるという要因です。大きな仕事を任せてもらったり、自身の成長を感じたりするなど、心の中に湧いてくる感情が要因となっています。
それに対して、もう一つの要因が「衛生要因」です。「賃金」や「その他の待遇などの条件」、「作業条件」、「経営方針」などがそれに分類されます。「衛生要因」は動機づけが一定以上損なわれるのを防ぐ効果があるだけで、積極的に上げる効果は望めない要因です。外発的なものが要因となっており、一時的にはやる気が湧きますが、その状態が続くとすぐにそれが当たり前となり、モチベーションの継続した向上にはつながりません。
自社で働けば、先述のうち、「動機付け要因」に当てはまるようなニーズがどんどん満たされると言うことを応募者に伝えることが「動機付け」の本質的な部分です。「承認」や「達成」、「成長」と言った動機付けの要因は、本人の“気持ち”の問題ですから、数字で「はい。こうなっています」と説明できるものではありません。丁寧なサービスを提供してお客様から褒められた社員や、社内の何かの取り組みをやり遂げた社員のエピソードを活き活きと語って、応募者に自社で働くことの魅力を伝える必要があるのです。
このように考えると、賃金を多く払う会社は、自ら「私の職場は動機付け要因が全くないです。だから、せめて不満を言われないようにお金を多めに払います」と言っているようなものと思えてなりません。
中小企業の経営者の方とお話していると、「ウチにはお金がないから…」とか「ウチは会社もみずぼらしいから」などと仰る方がいらっしゃいます。お金があろうとなかろうと、お金や会社の見た目の清潔感より、もっと強力な動機付けを模索するべきだと思うのです。良い成果を上げた社員に、その成果を他社に教える名誉ある立場を与えたり、責任の伴う大きな仕事を任せたりする。より効果的な動機付けは、お金のあるなしに関わらず、いくらでも実現することが可能なのです。
ここまでで、採用プロセスにおいて、「やる気を出させる」ための「動機付け」の重要性とそれを行なうタイミングについてお分かりいただけたかと思います。今回は採用プロセス全体のお話でしたが、次回からは、そのプロセス一つ一つの具体的な注意すべきポイントについて説明していきます。中でも、最初のステップとなる、魅力的な求人広告を作る上での重要な心得について、次回お話していきます。