全国の清掃会社の経営者の方が集まる「日本を磨く会」様が
毎月発行している会報誌の記事を執筆させていただきました。
▼日本を磨く会様のウェブサイトです。
https://migaku-kai.jp/
採用を行なう際に小さな会社が知っておきたいポイントを
全12回のシリーズでまとめています。
—–
『おさえておきたい!小さな会社の採用成功のヒケツ!』
シリーズ(1)「計画立案編」
第4回: 「妥協の採用は百害あって一利なし。決めておくべき最低条件」
前回の第 3 回で、「どんな人物を雇うかという具体的なイメージを決めておくことが大事 である」ということを説明しました。その人物が「ビビッとくる魔法の言葉」を見つけ出す と、格段に求人広告に目を留めさせやすくなるだけでなく、応募受付や面接の際にも関心を抱かせやすくなるからです。
採用したい社員の人物像は、前回「自社の社員の中から、長く勤めていて仕事をよくやっ てくれている人物を選ぶこと」をお奨めしました。人物像は既存社員と全く違うタイプでも もちろん構いませんが、具体的なイメージが湧きにくいので、可能な限り、現在在籍してい る社員、せめて、過去に在籍したことがある社員からイメージするのが良いでしょう。
ただ、現実に応募してくる人たちが必ずしもぴったりそのイメージに合っているわけではありません。「ビビッとくる魔法の言葉」をきちんと活用できれば、かなりイメージに近 づくのが普通ですが、それでも、色々な面で異なる人々が応募してきます。
そんな時のために、採用したい社員の人物像を決めたのとは反対側のアプローチも準備しておかなくてはなりません。それは、「採用される社員が満たしていなければならない条件」です。理想像で作った社員の人物イメージは、ピンポイントに集約された人物ですが、そこからどのような条件がどれくらいずれてしまっても許せる範囲なのかも決めておくということです。
会社のコンピュータを設計する会社をイメージしてみてください。システム開発の際に、どんなシステムが欲しいのかの条件を具体的にしていき、作るシステムの仕様を決める作業プロセスのことを「要件定義」と言います。採用でも同じく二つの要件を決めておくことが大事だと言われています。それは「マスト要件」と「ワント要件」です。
「マスト要件」は、応募者が絶対に満たしていなければならない条件のことです。「●●であること」や「■■ではないこと」など、たくさんあると思います。過去の事例などをきちんと検証し、「マスト要件」をしっかり書き出すことは大事ですが、一方で、書けば書くほど、採用条件が厳しくなるので、何でも書けばよい訳でもありません。最低限何が必須なの かを決めて、原則的に絶対変えないことにします。
これに対して「ワント要件」は応募者が備えていればより望ましく、優先的に採用するための条件です。こちらも「マスト要件」同様に、「●●だったら嬉しいこと」や「■■でなければ、嬉しいこと」といった二種類があり得ます。「ワント要件」はいくら書き出しても実害がありません。
企業側から見て、「マスト要件」をすべて満たせば、応募者は採用の土俵に乗ることになります。その中で最も多く「ワント要件」を満たしている順に、採用希望数だけ応募者が採 用されるということになります。この二つの要件を意識して採用を行なうことはとても重要です。
重要である理由は、この要件に従って雇っている限り、誰が採用担当者になっても、基本 的に同質の社員が雇いやすくなることが一番です。そして、もう一つ、採用の「ないものねだり」を諦めることができるというのが重要なポイントです。「マスト要件」を厳しくすれば、応募がいくらあっても採用できない事態が起きます。かと言って、金銭にルーズな人間や粗暴な人間を採用する訳にもいきません。
最低限必要な「マスト要件」が何であるかを決めて、それ以外は、最悪全部、採用後に育成によって実現する覚悟が必要なのです。その採用後に実現すべき事柄も手を抜けること が理想的なので、そういった事柄を「ワント要件」に反映しておくことになるのです。
「マスト要件」「ワント要件」を決めることが大事だと説明しましたが、それを決めていく際に、その要件をどのタイミングでどのような方法でチェックするのかを考えておくことが重要です。
会社によってどのような要件を求めるのかは異なりますが、例えば、ある製造業の会社では、業務する上で「几帳面さ」を重視しており、それを「マスト要件」の一つとしています。几帳面でない人に業務を任せた場合、業務中の事故やミスを起こしかねません。適性検査を受けてもらうことで把握することも一応できますが、そこまでコストをかけることができ ません。そこで、筆記試験の受験態度やカバンから選考書類を出す所作などを、几帳面さを 見極めるための選考基準としています。どれほど見た目に清潔感があり、志望動機をしっかり考えてきている学生だとしても、その会社では残念ながらお見送りとなってしまいます。
所作や態度だけで見極めきれないという場合は、「マスト要件」としている性格的要因を 持っていない人ができないだろうと思われる作業を用意し、面接の際にその作業をやってもらう、ということもできます。その作業ができない、または時間がかかってしまうなどがあれば、「マスト要件」を満たしていないと判断できます。
また、「マスト要件」の一つとして、モラルの低さが含まれている場合を考えてみましょう。例えば、割れ窓理論という考え方がありますが、モラルの低い人は家やその周りの壊れ ているものをそのままにする傾向があり、そのような状態が続くと近所にも同様の人が集まり、さらに町がどんどん荒廃していくという理論です。その理論に従えば、応募者の家の様子を見ると、ある程度モラルの低さがわかる場合があります。もちろん、面接で本人に聞いてもきちんとした回答は得られないでしょう。そこで、家族全体のモラル面はどうなって いるのかを見るために、必ず「ストリートビュー」を見て、きちんと片付けられている家か どうかなどを確認するという会社も多いです。
「ワント要件」かもしれませんが、一般論として、親が自営業である人を雇いたいと思って いる経営者は多いようです。仕事が会社から与えられるサラリーマンとは異なり、自営業の自ら仕事を取りに行く姿勢が重視されています。それを子供時代から見て、当たり前になっているのが大事だと思っている経営者も多いのです。ただ、厚労省のガイドラインによれば、面接の場で親の職業を聞いてはいけないため、「もし差し支えなければ教えていただきたいのですが…」と本人の了承を得て聞いていくことになります。
聞きにくいことを要件として設定した場合、それをどのようにチェックするかをセットで考えないと、「マスト要件」をどれほど具体的なものにしても、結局絵に描いた餅になってしまいます。
このように、「マスト要件」「ワント要件」を設定し、採用する上での最低条件を決めるだけでなく、その要件をどのタイミングでいかにチェックするのかも考えておかないと、採用 条件を決めたということになりません。
書類を書かせる、家を確認する、行動を観察する、適性試験・筆記試験を実施する、面接で 直接聞くなど、これらがすべて「マスト要件」「ワント要件」のチェックする方法として考えることができます。このようにありとあらゆるプロセスがあり、多種多様な組み合わせが あることがお分かりいただけるかと思います。ぜひ経営者のみなさまも、具体的に実現でき るように、「マスト要件」「ワント要件」を考えてみてください。