『おさえておきたい!小さな会社の採用成功のヒケツ!』第2回

全国の清掃会社の経営者の方が集まる「日本を磨く会」様が
毎月発行している会報誌の記事を執筆させていただきました。

▼日本を磨く会様のウェブサイトです。
https://migaku-kai.jp/

採用を行なう際に小さな会社が知っておきたいポイントを
全12回のシリーズでまとめています。
—–

『おさえておきたい!小さな会社の採用成功のヒケツ!』
シリーズ(1)「計画立案編」

第2回: 「お金のために働く人はいない。改めて考える自社の魅力」

前回の第1回では、採用は日常業務の一つと捉え、まるで資機材の購入から管理までをきちんと行なうように、社員の採用から育成、定着まで計画を立てしっかり管理をすべきであると説明しました。今回は、管理すべき資機材と社員が大きく違うことについて考えてみます。それは、社員には「意思」があることです。

資機材は発注してお金を払えばきちんと届きますが、社員はこちらが雇いたくても来てくれるとは限りません。社員がここで働きたいと思わなければ、採用はできないのです。仮に入社しても、「ちょっと違った」となるとすぐに辞めてしまします。社員の「働く理由」を考えることには大きな意義があります。

このように言うと、「そんなの、お金が欲しいからに決まっている」と思うかもしれません。実際に社員に「何で働いているの」と尋ねれば、「お金がもらえるから」と答えるでしょう。けれども、それは表面的な答えにすぎません。お金が本当の目的なら、もっと荒稼ぎできる怪しい仕事や危ない仕事が、世の中にはたくさんあふれています。今時、在宅で気軽にできる仕事もネットの世界にはたくさん募集が見つかります。「お金がもらえるから」というのは、考えるのが面倒だからそう言っているだけで、本当の理由ではないのです。

社員の働く理由を考える上で、米国の心理学者のハーズバーグが考えた理論はとても役立ちます。会社は社員の欲求を満たす様々なものを社員に対して提供することができます。ハーズバーグは、それらがすべて、動機付けを行なう=社員のやる気を出させる原因となっているとしたのです。彼はその要因に二つの種類があると考えたので、彼の理論は「二要因論」と呼ばれています。

その二つは、効果やその持続性に違いがあり、それぞれ「動機付け要因」と「衛生要因」と呼ばれています。「動機付け要因」は、なければないで取り立てて不満ではありませんが、あれば、非常に大きな喜びにつながるという要因です。ところが、もう一方の「衛生要因」は、まったく逆で動機付けが一定以上損なわれるのを防ぐ効果があるだけで、積極的に上げる効果は望めないと言うのです。

動機付け要因には、「達成」や「承認」、「仕事そのもの」や「成長」などがあります。大きな仕事を任せてもらったり、自身の成長を感じたりするなど、心の中に湧いてくる感情が要因となっています。それに対して、衛生要因には、「賃金」や「その他の待遇などの条件」、「作業条件」、「経営方針」などがあります。給料が上がったり、休日が増えたりするなど、一時的にはやる気が湧きますが、その状態が続くとそれが当たり前となり、モチベーションの継続した向上にはつながりません。

よく「社員が集まらないから、時給を上げなくてはならない」と言う経営者の方に会うことがあります。先ほども挙げたように「賃金」は衛生要因ですから、不満は減りますが、その喜びは長続きしません。逆に一度上げた給与を少しでも下げれば、不満を抑えている要因を減らすことになるので、上げたときの嬉しさをはるかに上回る不満が出てくることになり、最悪の場合、離職につながってしまうかもしれません。  

現在では、お金のために働いていない人が増えています。極端な例ですが、東日本大震災の後、ボランティアとして東北に向かった人は多数います。全国から正社員だった人が、その仕事を辞めて被災地で無給で働くことを選んだのです。二要因論で説明すると、衛生要因である給料よりも、動機付け要因である「被災者からの『助かった』『ありがとう』という言葉」がより求められています。

私の師匠である合資会社MSIグループ・市川正人が企画運営した後継者向けセミナーの宿題で、社員が会社を辞めずにいる理由は何かを調べるというものがありました。次期社長である参加者たちにディスカッション形式のセミナーの場で、実際に彼らの部下である社員が辞めない理由を思い浮かべてもらい、書き出してもらいました。「同業他社よりも給与が高い」「休みが取りやすい」など、すべてが「衛生要因」でした。

そこで、次回のセミナーまでに、その部下全員に実際にインタビューし、「なぜその社員は辞めないか」の問いへの回答を用意してもらいました。インタビューする際に、「知り合いに自分の会社を紹介するとしたらどんな会社と言うか」と聞くことが、本人が実際に感じている辞めない本当の理由を引き出すためのちょっとしたコツになります。

実際の回答を聞くと、「以前一人で残業をしていた時に、社長に声を掛けられ、高級なお寿司を食べに連れていってもらったことが忘れられない」「勤めていた会社がつぶれて仕事に困っているときに、前職と同じ条件で雇ってくれたから、そう簡単に辞めることはできない」「営業先のお客さんから、『あなたがいるからこの仕事を頼んでいるんだからね』と言われたことが、やりがいになっていて辞められない」などというのもあれば、「非常に親しい友人が社内にいる」というような場合もありました。

たった一度の出来事や頻繁に起きないことでも、それが原動力となり仕事を続けているということからも、「動機付け要因」は効果が長く続き、会社を辞めない大きな要因となっていることが分かります。むしろ、セミナー参加者の方が思い浮かべていた「給与」や「休日」といった「衛生要因」を、辞めない理由として答えた人はいませんでした。それほど、実際の社員は「衛生要因」を気にしていないのです。

求人広告には給与や勤務時間のことばかりが記載されています。それらの条件で選んだ社員は、就職した後に「仕事が面白くない」、「やりがいが感じられない」などと言い出しがちです。求人広告に打ち出しにくい、職場で得られる「承認」や「達成感」が、実は多くの社員が働いて得たい最大の“報酬”なのです。

読者のみなさまも、自社の社員やアルバイトなどの動機付け要因を、ぜひ具体的に考えてみてください。自社の従業員が会社を辞めない本当の理由を知った上で、それを意識的に実施することで、無駄なお金をかけず、今いる社員に辞めさせないことができるのです。

最近の記事

  • 関連記事
  • おすすめ記事
  • 特集記事
PAGE TOP