全国の清掃会社の経営者の方が集まる「日本を磨く会」様が
毎月発行している会報誌の記事を執筆させていただきました。
▼日本を磨く会様のウェブサイトです。
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採用を行なう際に小さな会社が知っておきたいポイントを
全12回のシリーズでまとめています。
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『おさえておきたい!小さな会社の採用成功のヒケツ!』
シリーズ(1)「計画立案編」
第1回: 「採用は日常の業務の一部。知っておくべき採用の心得」
大手企業に行くと、「人材開発部」という部署があることがあります。英語で「HRD」と略されているときもあります。HRDは、Human Resource Developmentのことで、まさに「人的資源の開発」という意味になります。人を資源と見立て、その調達や加工をしていくことを指しています。
「人の調達や加工」と言うと、少々違和感があるかもしれませんが、もう少し、資源のことを考えてみましょう。経営資源という言葉がありますが、「ヒト、モノ、カネ、ギジュツ、ジョウホウ」を経営資源の5要素として挙げるケースが多いようです。これらを総動員して、つまり、調達や加工を目一杯行ない、利益を最大限に上げるのが、企業経営という風に見ることができます。
資源が少ないと、経営の選択肢は限られてしまいます。運転資金がなければ支払いができませんし、資機材や洗剤類がなければ業務自体が成り立ちませんし、資機材の維持管理をはじめ、備品の管理技術などもなくてはなりません。お客様・資機材など各種の情報がなければ、明日以降の営業はおぼつかないでしょう。
ただ、経営資源が多ければ良いかと言えば、そうでもありません。それをフル活用できなければ、結果無駄の増加につながりかねません。単純なイメージで言うと、運転資金の規模が小さくて済むコンビニエンス・ストアは、仕入れた商品数十万円分を平均3日ぐらいで売り切ることができます。不動産売買業の会社は、仕入一回に億単位の費用を必要とすることもありますが、数か月に一回しか売れないかもしれません。両者を比べると、資金量が利益に直結していないことがわかります。資金を早く回転させ、フルに活用するから儲かるのです。
このように、経営資源は「最低限の量をフル活用する」ことが利益を生むことにつながりますし、その活動そのものが「経営」です。例えば、飲食店を経営している会社が、食材を仕入れるときのことを考えてみましょう。
まず、仕入れる食材や必要な量、その納期を計画します。「何となく減ってきたから、適当に注文しておけ。いつか配達されるだろう」といった呑気な仕入を行なう会社はありません。仕入先も、以前からの信頼できる会社を使うでしょう。さらに、より良い条件の仕入ルートを定期的に調べたり、同業他社がどこから仕入れているかをチェックしたり、さらには常に複数の仕入ルートを並行して利用するなどして、値上げや仕入先の倒産にも備えているかもしれません。
当然ですが、食材の価格についても、市場の相場感は常に意識していますし、どれくらいまとめて買ったら安くなるとか、コスト管理を色々と行ないます。そして、食材の旬によってメニューを変えていれば、必要な食材も変わりますから、単にお決まりのものを仕入れている訳ではありません。いざ納品されると、良い状態でお客さまに提供できるよう、適切に保存しておかなければなりません。そのためには冷蔵庫や冷凍庫の設置など保管環境づくりも大切です。
これが当たり前のモノの管理の一連の作業です。そして、店長のみならず、社員のほとんどは、この流れを説明できるぐらいに知っているので、計画的に、組織的に、自分のやるべきことをどんどんこなしていくことができるのです。
同じように清掃会社でみんなが意識して管理している活動を探してみましょう。おそらく最初に思いつくのは、やはり、資機材です。交換時期や適切な使用方法など、社員でもきちんと把握しているかもしれません。1台の価格や使用効果、一緒に使うべき洗剤、作業の段取りなども組織の中でかなり広く認識されているのではないでしょうか。
仕入先はもちろん最初から決まっています。仕入決定以前に、資機材メーカーの担当者から、使い方や注意点、過去の機材との違いなどについても、色々と聞いた上で決めているのではないかと思います。こうして考えてみると、清掃会社においての資機材は、組織の最も多くの人が情報共有した状態で「管理」されている経営資源であるように思えます。
先述の飲食店のケースでも分かる通り、これらの数ある経営資源を、計画的に継続的に、そして、日常的に組織的に、量と質の面からきちんと把握し、望ましい状態において望ましい結果につながるようにするのが、経営活動です。
4つの「的」という言葉が出ましたが、「計画的」は、将来のことまで見越して、予定を立てて対応することです。「継続的」は、長期間行ない、そのノウハウを貯めていくことが、活動そのものを磨いていくことにつながります。「日常的」は、毎日のルーチンの作業として当たり前に行なうということです。そして、最後の「組織的」は、組織の多くの従業員が、この活動や作業に十分な知識があり、十分に対応できる状態になっていることを指しています。この4つの「的」を前提として、「ヒト、モノ、カネ、ギジュツ、ジョウホウ」の5つの経営資源の量と質を望ましい状態にして、望ましい結果を引き出すこと。これが経営資源から見た「経営」の活動そのものなのです。
同じ経営資源なのですから、「ヒト」に対してもほかの資源と同様にきちんとした管理が必要です。それではここで、人材採用を考える上で心得るべきことについて、以下のことを、まるで、前述の飲食店の店長になったつもりで考えてみてください。
01.「人材採用の募集告知の方法の選択肢を多く持って、比較検討している」
02.「募集告知の方法の選択肢ごとのメリット・デメリット、コスパが把握されている」
03.「採用すべき人材の属性がいくつかのモデル像の形に整理され、明確化されている」
04.「人材のモデル像ごとの、やる気を引き出す事柄(動機付け要因)が分かっている」
05.「人材のモデル像ごとの、面接時の対応方法がマニュアル化されて決まっている」
06.「採用面接を、人材のモデル像ごとに違う形できちんと実施できる」
07.「人材のモデル像ごとに、採用しやすい時期や募集告知方法が、明確になっている」
08.「過去の辞めていった人材が辞めた原因を整理して理解している」
09.「モデル像ごとに過去三年間分の人材の在籍数推移がきちんと記録されている」
10.「今後一年間の人材のモデル像ごとの在籍数推移が精度高く予想できる」
11.「競合他社、異業種他社の募集条件や募集告知の方法などを把握している」
12.「人材全員の氏名漢字表記、年齢、学歴、趣味、血液型、大まかな住所、通勤方法を記憶している」
13.「人材が入社後マスターすべきスキルの一覧が用意されている」
14.「人材全員の必要スキルの獲得状況を把握している」
もっと挙げられますが、取り敢えず14個にしておきます。特に12番と14番の2つは、採用した後の話で、採用に関係ないように見えます。しかし、このような事実関係が踏まえられているから、これからの採用活動の方針を決めたり、これまでの採用活動に磨きをかけたりすることができます。これらの項目について、先ほど前提条件として述べた4つの「的」に沿って、実行できているかをチェックしてみて下さい。
「計画的」・「継続的」・「日常的」・「組織的」に、経営資源である人材の望ましい質と量を揃えておき、望ましい結果が出るようにしておくこと。これが人材採用を「日常業務の一部と心得る」ことなのです。